rebirth(原案:ヘルクレス龍「敵陣の真ん中で村人Aが必殺の右を放ち春が終わった」)
バーニングディバイド
日本がまだ縄文時代だった頃……遠く離れた大陸に巨大な四つの王国が存在した。スプリクラ、サマイヤ、オハート、ウィン
ペード。それぞれの国は四季を司る精霊王によって統治されていた。
争うこともなく、ゆったりとした空気が何百年も四季大国を包んでいた。
『あの日』が訪れるまでは……。
長きに渡って続く大陸戦争。その終幕が近いことをサマイヤの若き部隊長、ザン・ダディヤーナは肌で感じていた。
四季大国の一つ、スプリクラの離反。それがこの大戦の始まりだった。
それまで各々が季節を統括していたにも関わらず、春を司るスプリクラが次の季節をサマイヤに明け渡さなかったのである。
スプリクラの裏切りは当然他の三国にも影響を及ぼした。
いち早く異変に気付いたサマイヤは、王の命により使節団を送ったが誰一人として帰ってくることはなかった。
サマイヤは続いて残りの二国にも使節を送り、事態の解決に協力を求めた。
しかし、ウィンペードはスプリクラに季節を渡した後だったために、王を含め力を貯めている最中であり、またオハートはスプリ
クラとの関係が薄い上に春が続くことをそこまで問題と思わなかったためにそれぞれ拒否した。
やがて始まった大戦は、圧倒的的な力によって終始スプリクラの優勢であった。
じわりじわりと後がなくなっていくサマイヤ。半年が経とうとした時、力を取り戻したウィンペードが自らの担当する季節になっ
てもスプリクラが季節を明け渡していないことに業を煮やしサマイヤに助太刀した。
さらには、これまで無関心であったオハートもようやく事の異常さを感じ二国と共に戦い始めた。
そうして、少しずつ戦況が五分に戻りつつあった先月。ついにダディヤーナの部隊がスプリクラの参謀アラトナルトを倒し、驚く
べき真実に辿り着いたのだ。
この戦争は大臣レディプスの陰謀によって引き起こされたものであり、スプリクラの女王はレディプスによって洗脳されている、
事切れる前に洗脳の解けたアルトナルトはそういった。
真相を知り、打倒レディプスを掲げた連合軍は優秀な参謀を失い統率力の下がったスプリクラ軍をどんどん追い詰めていき、
ようやく今日敵の城に乗り込もうというのである。
ダディヤーナの脳裏にはこれまでの戦いでその命を散らした仲間たちの姿が流れていった。その中でもゴヨザは一際大きな存
在であった。
ゴヨザはダディヤーナの副官だった。軍に編成された頃からの友であり、常に横にいてくれた頼れる存在であった。
しかし、かつての上官コッカプの裏切りに遭いダディヤーナを庇って彼は命を落とした。
コッカプもやはりレディプスに操られていたのだが、怒りのままにダディヤーナに討たれた。
そして、一人残されたダディヤーナが残った部隊を率いることになり今に至る。
「(ゴヨザ……君との約束が今となっては俺に残された唯一の形見だ。今日、それを果たす)」
ダディヤーナは城に向かって駆ける馬の上で胸に置いた拳を固く握り締めた。
先導部隊により、城の門は既に開かれていた。ダディヤーナたちは、馬から降りて悪魔の巣食う城の中へと突入した。
城の中の兵士たちを次々と斬り捨てていく。
彼らの目には光がない。レディプスによって物言わぬ人形と化した彼らを救うにはこれしか方法がない。心の中で詫びながら、
ダディヤーナたちは進む。
ここまできたからには終わらせなくてはならない……この悲劇を。
敵兵たちは絶えず現れ、気づくと囲まれてしまっていた。
こんなところで足止めを食らっている場合ではない……皆がそれを察し、一人が言った。
「隊長、あの一角が層が厚いです。そこを一気に攻めて先に向かってください。ここは俺たちに任せてください」
「しかし……それでは」
「副官や他のみんなもそう言っていたでしょう。これはみんなの総意です」
彼の眼差しは本気だった。
ダディヤーナは小さく頷くと、皆の開けてくれた道を通り城の最深部へと走った。
ダディヤーナは記憶を頼りに、かつて一度だけ入った玉座の間のドアを開け放った。
「女王を操りし黒幕レディプス。サマイヤ王国部隊長ダディヤーナが貴様を葬りに来た!」
部屋には玉座に座りし若き女王、さらにその横には狡猾な笑みを浮かべる男が立っていた。彼はダディヤーナの登場にも表情
を変えずにほくそ笑む。
「おやおや、何のことかな?女王に無礼な謁見をするでなく私にご用とは」
仇敵レディプス。顔を見た時、ダディヤーナは心の底から怒りがこみ上げてきた。
右手に装着した魔導砲。ここに至るまでに練った魔力を装填し、レディプスに向かって発射する。
「無駄なことを……女王の前でその様な無礼を働くとは」
レディプスの前で魔弾は消失する。
「……魔導壁か!」
魔力で作られし、バリア。それによってレディプスは己と女王を魔弾から護っているのだ。
「今度はこちらの番ですよ!」
レディプスと女王の魔法攻撃が絡み合いダディヤーナに襲いかかる。
流石のダディヤーナも全てを躱しきれずに頬と脇腹に攻撃を受けた。鎧はひび割れ、砕けた冑からは血の流れるダディヤーナ
の顔が覗いていた。
(魔導壁による防御と一流の魔術師である二人による魔法攻撃……俺一人で太刀打ちするのは難しいか?すまない……みん
な、ゴヨザ)
もはやこれまでか、と首を傾けたダディヤーナの目に魔導砲がうつる。
(ゴヨザ……君はもうここにはいないけれど、君を思い出させるものがまだここにあった)
ダディヤーナにはまだ奥の手が残っていた。かつてゴヨザと編み出した必殺の切り札。たった一撃でも憎きレディプスにぶち当
てれば確実に葬ることのできる確信がダディヤーナにはあったのである。
「どうしました?もう降参ですかな?」
嘲笑を浮かべるレディプスに、ダディヤーナは走る。
「俺は全てを失った……大切なものを。仲間も、友も、故郷も、何もかも……だからこそ彼らとの約束。『国を護る』という誓いだ
けは残った俺が果たさなければならない!」
「残念ながら、ここで貴方は果てるのですよ!」
再びレディプスと女王の攻撃がダディヤーナを襲う。しかし、今度は走りながらも一つ一つ丁寧に躱していく。確実に。
そして、レディプスが気づいた時。ダディヤーナは目標に達していた。
「この距離ならバリアは張れないな!」
魔導砲の銃口がレディプスの腹に押し当てられる。
「き、貴様ァァァァァァ!」
「チェックメイトだ、レディプス。見ているかみんな、ゴヨザァァァアアア!」
放たれた魔弾の凄まじい威力に辺り一面が閃光に包まれていった。
激しい爆音の後、玉座の間は静寂に包まれていた。
レディプスは跡形もなく消え去り、女王は力なく倒れた。
城の外ではそれまで一定の角度で停止していた太陽がぐんぐんと登り始め、ギラギラと森の木々を照らし始めていた。
#第95回創立記念降誕会