原案:中執員一同「(試験当日に)瀬田学舎で立川が海に潜って空の彼方に消えた」
深藤 康
その日、構内は学生の「単位を落とすまい」という真剣な眼差しで溢れていた。今は大学試験期間の真っ只中。図書館や学食
は、これから試験に挑まんとする学生だらけで、開いている席が中々見つからない。教室から出てくる学生たちの表情は、晴れ
晴れとした者もいれば、この世の終わりのような顔をした者もいて様々だ。たかが1単位されど1単位。その1が卒業か留年かを
分かち、決めてしまう。故にそれぞれの学生が真剣に試験に臨み、単位をつかみ取る。俺達も単位をつかもうとする者の1人で
あり、これから瀬田キャンパスで行われる試験に向かっている最中だ。
「やばいわー……この単位まで落としたら、冗談抜きで親にしばかれるわー」
「お前、今期何単位いけそう? 次の試験含めて」
「10」
「それは、しばかれるなあ……」
「ただでさえ通るの少ないって言われてる講義だからなあ」
「何割通るんだっけ?」
「覚えてないけど、半分は切ってたんじゃない?」
「確か4割やったと思うで」
「やばいわー通る気しないわー」
「そういえば、今日まだ立川見てないけどお前らなんか聞いてる?」
「立川? 何にも連絡来てないで」
「俺も今日はまだ見てないな」
「立川から借りたノート借りっぱなしだったの返そうと思って持ってたんだけどなあ。今日の試験の」
「それはもっとはよ返してやりなさい」
各々が試験への不安な思い(と若干のおふざけ)を零しあう中、携帯が突如鳴り出した。画面に表示された名前を見てみれ
ば、そこには「立川」と名前が示されている。立川から電話が来るなんて珍しいなと思いつつ、画面に表示された通話のボタンを
押してみた。
「もしもし立川? お前次の試験受けるよな?」
開口一番試験の話。試験期間の学生の性である。
「ん、いく」
「お前今どこおるん?」
「瀬田……」
「はよしないと試験始まるで、あと5分」
「んー……」
「お前、どうした? 体調悪いんか」
間延びした返事を最後に、立川との通話は切れてしまった。そして、立川は試験開始時間になっても、教室に現れることはな
かった。
後日、キャンパス内で偶然立川と遭遇した。この前の試験はどうしたんだ、結局受けられたのか。という質問に、立川は静か
に首を横に振った。
「お前、試験の時電話くれたじゃん。俺……あの時うっかり図書館で居眠りしちゃってさ……」
聞いたところによると、なんとも突拍子もない夢を見たらしい。中の良いメンバー4人で、琵琶湖に行ってウニを捕まえる夢を見
たと。捕まえたウニを陸に持って行こうとした所、そのウニを俺が奪い取り「琵琶湖にウニはいない!」と全力で空の彼方に投げ
つけたと。夢とはおかしなもので、たったそれだけの内容なのに、彼は3時間も図書館で眠りこけていたらしかった。
「……とりあえず、ノート返すわ」
「お前返すの遅いって」
無情にも立川はこのへんてこな夢のせいで単位を落とし、留年も決まった。
#第95回創立記念降誕会