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降誕会企画小説「どじょう踊りのはじまり」


   どじょう踊りのはじまり(原案:K氏「(縄文時代に)図書館でK村さんがどじょうおどりをして大爆笑」)

                                                                  降誕会2班の班長

 本日お集まりのみなさまにおいては、近日いわゆる歴史というものに、若者がたいへんな興味を示しているのは周知の通りで

ございましょう。歴史を辿ることにより、今現在人の身近にあるものが、これこれどうした、という理由で、その由来とか起源とか

いうものが判明いたします。これはたいへん面白いことです。お集まりのみなさまもご理解していただけていることかと思いま

す。みなさまは中華料理の起源をご存知ですか。みなさまは七夕の由来をご存知ですか。今回取り上げますのは中華料理で

も七夕でもありませんので、興味のある方はご自分で調べてみてください。

 さて、今回私が焦点を当てますのは、とある民俗舞踊についてです。島根を中心としたこの舞踊、つまり踊りはですね、今日

では、どじょう踊り、と呼ばれております。この名を耳にした方は多くいらっしゃるかと思いますが、実際問題として、どんな実態

なのか、またどのような文化背景を持つのか、事実、あまり知られてはいません。しかしこの、どじょう踊りというものは、今日の

研究成果としては、たいへん重要なものでして、結論から申しますと、この踊りの起源は遠い西アジアの地にあったのです。あ

の有名なヘレニズム時代の文化融合が、シルクロード東漸の結果であるところの、正倉院宝物庫につながる、という説にも関

わってくるかもしれません。どじょう踊り研究の重要性の理由は何もこれだけではありませんが、時間も限られておることです

し、前置きはこの辺にしましょう。次からどじょう踊りの由来に入ります。

 時代は紀元前48年、場所はエジプト。東にナイル川下流、すぐ北の地中海に面した地域。あの有名なアレクサンドリアが舞

台です。また後で触れますが、この紀元前1世紀という時代に、ピン、ときた方もいるはずです。

 さて、このアレクサンドリアにとても大きな図書館がありました。そう、アレクサンドリア図書館です。少し図書館について概要を

説明いたしましょう。当時は紙ではなく、パピルスというものに文字が書かれ、それを今でいう本、としておりました。その本、文

学やら医学やら法学やら何から何まで……約70万の蔵書数でありました。もちろん歴史や哲学といった分野もたくさんあった

のです。集められたのは本ばかりでなく、世界中の学者もアレクサンドリアに招かれました。ヘレニズム時代のアレクサンドリア

はまさに、学問奨励の地であったわけです。図書館の方もただ本を保管する場、というよりも翻訳作業を主とした研究機関とい

えます。この学問の都には、アレクサンダー大王を代表とする、多くの人物が関わったわけですが、これから紹介する登場人

物は、もっともっと平凡な人間です。ですが、この人物が実に、学問を志す者の規範であると私は断言し、評価したい。

 人物の名はカイサー・ムーラ。またはカイザムラ。他にもキター・ムラとかキザー・ブンナという名称があります。本、という意

味のアラビア語で、kitabun(キターブン)という言葉がありますが、これの語源となった名前ではないかという話もあります。そ

れは余談として置いておきまして、ここでは彼のことをカイザムラと呼称しましょう。西洋風の読み方ですので、語呂がいい。史

料によるとカイザムラ自身、学者であったようで、出身地アラビア半島、こちらについても諸説ありますが。からギリシャを経由し

て、紀元前50年、アレクサンドリアにやって来ました。その後彼はしばらく学者生活を続けるのですが、図書館の方から呼び出

しがかかるのです。つまり、うちの職員にならないか、という招待の意ですね。これは実はみなさん、すごいことなのです。宮廷

からのお呼び出し、と考えてくれてもかまいません。当時アレクサンドリアはさっきも申しましたように、学問奨励の地でして、中

でも図書館は学問の最先端機関だったわけです。ですから、図書館員という職位は学者にとってたいへんな名誉でした。カイ

ザムラが図書館員としてどのような働きをしたか。それはギリシャ語史料に載っていまして、この史料、というのは当時の図書

館員のリストのようなものです。全容を申し上げることはできませんが、それによれば彼は書庫の入口の番人を務めていたよう

です。

 やがて紀元前48年、アレクサンドリアにとって苦難の年がやって来ます。この年はそうです、ローマ軍の侵略があった年であ

ります。あの有名なカエサルもこの地に踏み入りました。この事件に関する別の史料によりますと、ローマ軍とプトレマイオス軍

の衝突によって、湾岸と陸路に火災が生じ、さらに図書館に燃え移りました。これがアレクサンドリア図書館第一の焼失です。

この際、多大な貴重書物が失われ、文化の大きな損失であったと評されるのはみなさまよくご存じであると思われます。

 さてこの事件の裏側で、カイザムラがどう動いたか。史料がないためそれは分かりません。しかし後の史料には、図書館焼失

後のカイザムラの動きが記載されているのです。この史料を書いたのが何者であるかは分からないのですが、おそらくカイザ

ムラと親交の深かった人物でないかと私は考えるのです。そしてまさにカイザムラを取り巻く彼らこそが、どじょう踊りを生み出

したのではないかと! ……以下がその史料の引用になります。どじょう踊りの歴史を見るに当たって、はずせない史料になる

でしょう!

《ローマ軍による蛮行によって、図書館は炎に苛まれるばかりか、内陸まで侵略して来たローマ人によって直接破壊され、諸種

の書物が持ち出された。野蛮人の手によって持ち出された全ての書物は、彼ら自身の手によって、川に打ち投げ捨てられる運

命にあった。文字は水に溶け出し、あの偉大なる美しきナイルを黒く染め上げた。それは川というよりもむしろ泥水のようであっ

た。その黒い川の中、我らが同朋カイザムラは腰を折って膨大なパピルス紙片を拾い上げたものだ。それは殆ど無駄な行為

だ。文字のないパピルス紙片に、一体何の意味があるだろうか。川岸でローマ人たちはカイザムラを目前に、悦びの声を上げ

た。学問しか能のない軟弱者があくせく働いているぞ、と彼らは囃し立てた。それでもカイザムラは掬うことを止めなかった。ま

たローマ人たちは何処からか木で作られた笊を持ち寄り、川に向かって投げた。そして言った。働き者よ、いい物を与えよう、そ

れを使い、励みたまえ、と。カイザムラはその笊に気づくやいなや素早く手に取り、それを使い一心になって水面を掻き始めた。

これを見たローマ人たちは大いに悦び、手を叩いて笑った。また、なんと同朋の哀れなることか、水面を掬い上げるその姿を真

似て、滑稽なことだと嘲り笑う者もいた。》

 なんということか、この記述はまるで、どじょう踊りではないかとすぐに私は気づきました。それからというもの、何度この史料

を読み返しても、そうとしか思えないのです。この後、他のアレクサンドリア市民の何人かも川に入り、カイザムラと一緒にパピ

ルス紙を掬いました。その光景は数日間ずっと続くのです。ローマ人たちはさぞ愉快だったでしょう。終局的に、カイザムラはど

んどん川の深いところに向かいまして、溺死する運命にあるのですが、彼は栄誉あるアレクサンドリア市民である、と人々から

尊敬を受けるのです。そして、私から言えばまた、彼はどじょう踊りの原点であると! 非常に面白いことです。非常に気になる

ところです!

 さらにですね、ヘレニズム時代の地中海周辺や、ローマの遺跡を見てみますと、壁画なんかに、笊を持った人の姿が描かれ

ていることがあります。あるいは、川に入って腰を屈めている姿も見られます。形こそないものの、もしかしたらカイザムラの行

為が、舞踊、というところまではいかなくとも、象徴的な仕草として地中海周辺に広まったのかもしれません! 仕草の形式もお

そらく、地域や時代ごとによって変化したり、もしくは消滅することもあったでしょう。しかしこの象徴性だけは、どこへでも引き継

がれていることでしょう。この仮説が正しければシルクロード東漸にも関係します。ドジョウは魚ですよね、魚は日本では魂や言

霊を象徴する神聖な生物でして……(博士の講演は続く)

#第95回創立記念降誕会

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