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あかさたな太郎

降誕会企画小説「データ食」


   データ食(原案:薄紅千花「二次元の中で大統領と侍が食レポをして地獄を渡る」)

                                                                    あかさたな太郎 

 人類という文明の発展は、時に光の如き速さで進んでいく。人々は、その時々を革命だったりその他様々な名で呼び、人類史

のターニングポイントであると教えられ、日々生活している。もしかすると、爆発的な発展を遂げることというのは、道端を歩く黒

猫と眼が合うことと同じくらい、優に起こりえる事象なのかもしれない。

 人類の魂は、遂に肉体という檻から解き放たれた。全人類の肉体は、いくら発展したといえども、予想不可能な未来に備えて

冷凍保存されている。彼らの魂――意識は、全てデータという質量を持たぬ存在に移され、質量を持った世界を超越したのだ。

 人々はこれを、人類史に倣い『革命』と称した。

 意識革命、肉体革命、データ革命……世界中の人々が、あちらこちらで騒ぎ立てて発展を喜んだ。データの中という未知なる

世界へ飛び込み、彼らはもはや絵本の中の登場人物のように自由自在に生きることができるようになったのだ。実に喜ばしい

ことだ。人々はアバターを作り、その姿を幾度となく変え、ファンタジーのような魔法を使い、空を飛ぶ。いつかの非現実が、目

の前の現実になったのだ。

 さて、未知の娯楽が増えるということは、それだけその娯楽に熱狂する人々が現れるということだ。

「よし、いくか」

「ああ」

 つい先日限定配布された何時ぞやの大統領のアバターと、昔ながらの侍のアバターの二人がいた。彼らの目の前にあるの

は、皿の上に乗った言葉では形容しがたい物質。皿に乗るということは、おそらく食べ物といったところだろう。

「人生初のデータ食……それがこれとは、ちと怖いな」

 侍姿のアバターがぼそりと呟く。

 彼らが今から行おうとしているのは、『データ食』というものだ。現実世界の食べ物の数は、多いといえど、たかが知れている。

しかし、データとなれば話は別だ。拡張子を変えたり、容量を変えたりすれば、現実を凌駕するほどの種類の味が生み出され

る。だからこそ、娯楽として、『データ食』という文化が注目されている。

 それで、彼らは今回、熱帯エリアのメンテナンス直前企画として、未知のデータを食べにやってきたということだ。しかし、目の

前の皿にはとても現実の熱帯にある食べ物とは思えない、あまりにも冒涜的でおぞましいデータが乗っていた。

「しかし、あんこうはグロテスクだが美味いぞ。これもその類かもしれん」

 大統領姿のアバターが答える。その額には汗(のようなデータ)が浮かんでいる。やはり、いくらあんこうがグロテスクだからと

いっても、目の前の物体と比べると、あんこうは見た目も素晴らしいものに思えるのだろう。

 一思いにいけ! とっとと食っちまえ!

 ギャラリーが騒ぎ立てる。彼らも彼らで、自ら食べる勇気は無いものの、やはりその味は気になるのだろう。

 すう、と侍は深呼吸をし、握っていたフォークをデータに突き刺した。中から汁が出てきたり、現実でよくある光景は見られな

い。ただ刺しただけだ。

 数秒の間の後、ゆっくりとデータを持ち上げて、口の前まで移動させる。ごくりと飲み込んだ唾と、喉元で流動する喉仏。

 薄い桜色の唇が上下に分かれ、真っ赤な口内が現れる。

 そうして、溢れないように、そっと、そっと、データを口の中にいれ、咀嚼した。

 その後、一人の侍アバターがリスポーンしたらしい。

#第95回創立記念降誕会

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